弁護士浅野剛によるWeb法律相談

弁護士浅野剛が、身近な法律問題を仮想の法律相談形式でなるべくわかりやすく説明するブログです。

物権法改正~共有物の管理~

今回のテーマは『物権法改正~共有物の管理~』です。

 

債権法改正に続いて物権法が改正されます。
今回、民法の共有に関する規定に大きなテコ入れがされた点はインパクトが大きいと思います。
施行は2023年4月頃ですが、法律自体は成立したので重要なポイントだけ簡単に解説していきたいと思います。

 

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上高地の焼岳山頂付近。筆者撮影。

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相談者: 先生!私は改正された物権法が施行済みの異世界から転生して来ました。
ところで、私はAさん、Bさんと建物を1:1:1で共有しています。この建物に郵便ポストを付けたいのですがどうすればいいですか?

 

私:建物は共有ですから現行民法に照らせば共有物の変更ということで共有者全員の同意が必要です。
 ただし、改正法においては軽微な変更(形状・効用に著しい変更が無い場合)については、共有物の管理と同じように持分価格の過半数で行うことができるという規定が新設されました。
 したがって、軽微変更に当たるならAかBの同意が必要で、軽微変更に当たらないならAとB両方の同意が必要です。

 

相談者:郵便ポストの設置は軽微変更に当たるのですか?

 

私:何が軽微変更に当たるかはこれから裁判例が集積されていくのを待つことになります。ただし、区分所有法(※分譲タワーマンションなどを規定する法律)の規定が参考にされているといわれているので、建物に関しては区分所有法が参考になるでしょう。
 手すりの設置が軽微変更に該当するようで、郵便ポストのサイズや設置箇所によっては軽微変更に当たる可能性は十分あると思います。

 

相談者:実は本件建物について、誰がどのように使うかを話し合う前にAが一人で無断で使用し始めています。この場合、私は本件建物を使えないのですか?

 

私:現行法下においてはあなたとA、B全員の同意がなければAに明け渡しを求めることはできないとする考えが有力でした。
 しかし、改正法においては持分の過半数の同意で別の者が本件建物を独占的に使用することを定めることができるようになりました(改正法252条1項後段)。
 したがって、Aの同意は不要になるのが原則です。

 

相談者:Aは好き勝手に使っているので出て行くことに同意なんてするはずないですからね。

 

私:ただし、「特別な影響」(252条3項)がある場合はAの同意も必要になります。
 特別な影響があるかは完全に事例判断になりますが、共有物の使用者の変更はこれに当たるとする立法担当者の見解があります。
 要するに、Aが出ていくということになると生活の基盤が失われるので大きな影響がある。そういったことを多数持分権者が一方的に決めるのは権利の濫用のようなものであるから場合によっては認めないよ、と言うことです。


 本件では、Aは合意に基づいて本件建物を利用しているわけではないですから、「特別な影響」があると判断される可能性は低いと思います。

 

相談者:私は本件土地建物を単独で使用するAに対して何か主張できないのですか?

 

私:改正法によりAの持ち分1/3を超える部分についての対価償還義務及び善管注意義務が明文化されました。
 したがって、Aに対して対価の償還請求や善管注意義務違反の損害賠償請求などが可能です。

 

相談者:私は、某YouTuberの影響で財テクとキャンプにハマっています。
そこで、本件建物を丸ごと第三者に貸して、自分は郊外の山小屋に移住するという生活に憧れるようになりました。どうすれば実現できますか?

 

私:現行法下ではどのような内容の賃貸借契約が共有者全員の同意が必要な「変更」(民法251条)か、共有者の持分価格の過半数の同意で可能な「管理」(同252条)に当たるか不明確でした。
 改正法ではまず、短期賃借権の規定が新設され、持ち分の過半数で短期賃借権の設定が可能になりました。なお、建物の賃借権等上限は3年です(改正法252条4項3号)。
 定期賃貸借契約でも3年以内であれば同様と解されていますが、登記制度の関係で実際に使われるとしたら定期賃貸借でしょうね。
 これらであればAかBの同意があれば可能です。

 

相談者:普通の賃貸借はダメなんですか?せっかくだしもっと長期間運用したいのですが。

 

私:更新拒絶による契約の終了が難しいので普通の賃貸借契約の場合、共有物の変更として全員の同意が必要です。

 

相談者:じゃあ、3年の定期賃貸借でいいです。ところで、賃貸借の件について相談しようにもAが行方不明でBが無反応なのですがどうすればいいですか?

 

私:共有物の管理に関するに新設の非訟手続を利用することが考えられます(改正法252条2項)。
 Aのような行方不明者に対しては公示送達のような手続(戸籍・住民票による調査及び現地調査)が必要で、Bのような無確答者に対しては2度の催告手続が必要ですが、仮にAが本当に行方不明で、Bが何の反応もしなければA、Bを除外した過半数で本件建物を賃貸することを決することができる裁判を申立てることができます
 
相談者:仮に私がこの手続を利用せずに無断で第三者と3年の定期賃貸借契約を締結した場合、当該契約の効力はどうなりますか?

 

私:物権法上の効力は認められず、契約自体は他人物賃貸の場合と同様に有効になります。

 難しいのでもう少し噛み砕くと、無断売買の相手方である第三者に本件建物の所有権は移転しませんが、当該第三者との契約自体は有効に残ってしまうので無断で売った人は債務不履行の契約責任等を負うことになります。

 

相談者:実は私とA、Bの生活の拠点がそれぞれ、沖縄、四国、北海道になったので東京にある本件建物の管理ができそうにないが思い入れがあり手放したくないです。何かいい方法はありませんか?

 

私:新設された管理者制度を利用することが考えられます。
 共有持分の過半数で共有物の管理者を選任可能で、選任された管理者は共有物について善管注意義務を負います。
選任された管理者は共有物について管理行為まで行う権限がありますので土地の管理について考える上で検討してみてはいかがでしょうか?

 

相談者:なるほどよく分かりました。

 

以上
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共有物の管理に関する法改正について包括的に解説してみました。
続編は未定です。

 

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土地の境界で揉めた場合ってどうなるの?


今回のテーマは『土地の境界で揉めた場合どうなるの?』、つまり境界確定訴訟です。

 

境界確定訴訟といえば、民事訴訟法で試験によく出題される分野ですが、実務ではあまり案件の多くない分野だと思います。
ただ、地方の法律相談会に行ったりすると毎回1件は相談されるような身近な問題ですので今回手続の流れやポイントを簡単にご説明したいと思います。

 

 

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写真は筆者撮影の剱岳富山県)山頂付近です。


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相談者: 先生! 隣の土地の所有者と土地の境界で揉めています。これまで、境界の北側はブロック塀、南側は側溝の側の木の杭が先祖代々境界の目印でした。しかし、隣家が代替わりして、勝手に杭を動かしてきたりして困っています。

 

私:境界について紛争が生じている状態ですね。そもそも、境界には①私法上の境界と②公法上の境界があります
 ①私法上の境界は私的所有・取引の単位ですが、②公法上の境界は課税上の単位を画するなど公的な側面がありますので所有者であっても自由にできないとされています。
 なお、②の公法上の境界について、法律学では境界(ケイカイと読むことが多い)と言うことが多いですが、土地家屋調査士の方は筆界(ヒッカイ)と言うことが多いです。どちらも同じものです。

 

相談者:難しいですね。私の場合どっちが問題なんですか?

 

私:両方です。

 

相談者:それでは、①私法上の境界と②公法上の境界とを確定する手続について教えて下さい。

 

私:まず、①私法上の境界については、任意交渉民事調停所有権確認訴訟が可能です。
②公法上の境界について確定する手続としては筆界特定制度があります。
これは土地の登記名義人などの申請に基づいて、筆界特定登記官が筆界調査委員の意見を踏まえて筆界の位置を特定する制度です。
 これは、①私法上の境界を特定する能力が無いので紛争の一挙解決が出来ない、そもそも相手方が応じてくれないと使えない、不服があれば結局境界確定訴訟になる、というデメリットがあります。

 

相談者:微妙ですね。土地家屋調査士に依頼して当事者間の合意でサクッと解決できないですか?

 

私:実際はそのような手法は良く用いられていますが、これも相手が応じないと使えないというデメリットがあります。また、当然ですが、測量には多額の費用がかかります。
 いずれの方法でも測量は必要ですが、この費用が時には100万円を超えることも珍しくなく、地価の低い地域ではきちんと白黒付けられない原因になっています。
 あとは土地家屋調査士によるADRの制度などがありますが、相手が応じないと使えない点は同様です。
 境界紛争においては隣地の所有者と全く連絡がつかないケースや、既に揉めていて没交渉となっているケースが多いのでこれらの手法はあまり使えないなというのが率直な感想です。

 

相談者:それではどうすればいいんですか?

 

私:境界確定訴訟を提起するのが良いと思います。
 上述の通り、①私法上の境界については、民事調停や所有権確認訴訟が可能ですが、普通は境界確定訴訟と併合提起(※2つの請求を同時に申立てること)して行います。

 

相談者:なるほど。ところで①私法上の境界と②公法上の境界と区別する実益って何があるんですか?実際の法的手続にどのような違いが生じますか?説明を聞いていると両者の区別が曖昧な気がします。

 

私:民事訴訟法の一般的なテキストにおいて、境界確定訴訟は形式形成訴訟と呼ばれ、処分権主義や弁論主義が排除され、和解が認められないなどとされています
難しい概念ですが、要するに本来の訴訟では当事者主導で行う代わりに、当事者がその責任を負うという形で行われますが、境界確定訴訟はこれまで説明したように、公的な側面を含むために両当事者の介入が制限され、裁判所に一定の権能が認められるということです。

ただし、実際の訴訟進行ではおっしゃるように両者の区別はかなり曖昧だと感じました。裁判の流れも普通の事件と変わりませんし、実務上は和解も可能です。
そもそも裁判官が両者を厳密に区別して考えていないように感じました。

ただし、①私法上の境界については後述のように土地の取得時効が独自に問題となり得ますので一応区別して考えておきましょう。

 

相談者:そうなんですね。それでは訴訟に向けてどのような準備をすればいいですか?

 

私:まずは問題になっている土地の測量が不可欠です。また、問題の土地の公図や換地確定図などの図面、登記簿などの収集、境界付近に設置した杭やブロック塀建設に関する資料や写真などを準備して下さい。
 一番ネックになるのが上述した測量費用ですが、一般的な事案で、諸々の費用合わせて200万円程度はかかると思って下さい。

 なお、測量については、きちんと争うのであれば仮に被告側であっても行うべきです。

 

相談者:費用は何とかします。訴訟で争点となるポイントはどんなものがありますか?

 

私:②公法上の境界については様々な事情からどこが土地の境界か、という点が争点になります。公図や換地確定図などの図面と現在の測量データの整合性や昔の写真などとの位置関係の整合性がかなり重視されます。
 たとえば、本件では木の杭が相手方により勝手に動かされたとのことですが、埋設した杭の側にある側溝と杭自体との位置関係が当時の写真により明らかになればかなり有利な証拠になります。
 あとはその後の出来事の中で、杭がこちらが主張する場所にあることを前提に関係者が行動していたかどうかなども考慮しますが、これはどちらかと言えば弱い事情になります。

①私法上の境界についても、基本的には②公法上の境界と共通した判断がなされますが、独自に取得時効が問題になります。

 

相談者:どういうことですか?

 

私:立木やブロック塀などが境界上にある場合、そのブロック塀等により土地を時効取得していたと言える可能性があります。そうすると、たとえ境界の位置についての主張が認められなくても裁判で逆転できる可能性があります。

※取得時効の詳細については過去記事「取得時効で領土拡大していったら日本全土がマイホームに!?」をご参照ください。


土地の時効取得が認められると、①私法上の境界と②公法上の境界がズレることになるわけですが、実際に工作物を収去して土地を明け渡せというには①私法上の境界で勝たないといけないので、②公法上の境界で勝って①私法上の境界で負けると結局何のために訴訟をしたのかという話になりかねません。
こちらから訴訟を提起する際には十分注意したいところです。
境界の位置について、明らかにこちらの方が正しくても、相手が土地を時効取得していればこちらが代償金を払って土地を買い取る必要がありますので、感情的にも難しいことになってしまいます。

 

相談者:なるほど。

 

私:結局、多大なコストをかけても土地境界を確定させる経済的メリットがあるか考えて方針を決めるのが重要かなと思います。感情的な対立が激化しがちな事件類型ですが結局お金の話だということです。

 

以上
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婚姻費用について~東京高決令和1年12月19日を参考に~

 

今回のテーマは『婚姻費用』です。

 

久々に最新判例の検討を行います。実務家でなくとも分かるように工夫しましたので是非ご覧下さい。

 

今回は、最新の重要判例(東京高決令和1年12月19日判例時報2471号68頁)を参考に、①婚姻費用の金額の合意があった場合に減額調停が申立てられた場合、当初の合意額をベースに算定するのか、それともゼロベースで算定するのかという問題及び、②年金受給資格はあるけれども実際には受給していないケースで算定表の基礎となる収入にこれを加えることが出来るか、という問題を検討していきます。

 

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写真は私が昨年登った鳥海山秋田県山形県)の山頂付近です。奥に薄ら日本海が見えます。

 

 

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※以下の事例は上記裁判例を参考にはしていますが、あくまでも架空の別事例で無関係です。

 

相談者: 先生! 私は夫と別居後、裁判所に婚姻費用分担の調停を申し立て、調停の結果、婚姻費用が月額15万円という調停がまとまりました。しかし、先日、65歳になった夫が会社を退職したということで収入が無くなったと主張して婚姻費用の減額調停を申し立ててきました。夫は、既に年金受給資格を有しているのに受給額をなるべく増やしたいということで70歳まで年金は受給しないことにしているから収入がゼロで婚姻費用は払えないと言っています。私の婚姻費用はどうなってしまうのでしょうか?

 

私:まず、婚姻費用はお互いの収入をベースに家裁HPに掲載されている算定表というものをベースに決められます

詳しくは当ブログ 『【2020/11/12更新】婚姻費用・養育費ってどうやって決まるの?算定表って何?』をご参照ください。

 

相談者:有名な算定表ってヤツですね。今回は婚姻費用の減額調停ですが、これが認められる要件って何でしたっけ?

 

私:基本的な事情は織り込み済みであるし、婚姻費用はあくまでも離婚までの暫定的なものと考えられていますので、多少の事情の変更があっても減額や増額は認められません。次の要件が必要です。

 

⑴合意等の前提となった客観的事情が変更したこと

⑵事情の変更が当事者の予見した又は予見しうるものでないこと

⑶事情変更が当事者の責めに帰することのできない事情により生じたこと 

⑷合意等どおりの履行を強制することが著しく公平に反する場合であること

 

詳しくは当ブログ『養育費、婚姻費用の新算定表について』をご参照ください。

 

相談者:会社の退職は解雇であればこれに当たる可能性が高いのですよね?

 

私:そうですね。今回は定年退職ですが、定年退職でも大幅な収入の減少があることに変わりはないですから予見できたとは言え、事情変更に当たる可能性は高いように思います。

 

相談者:今回のケースで気になっている点がありまして、まず、当初の婚姻費用調停で夫の方から月額15万円にしてくれと言ってきたのでそのようにしたんですよ。完全に任意な合意がある場合、婚姻費用の金額は算定表に縛られないのではないのですか?つまり夫の収入が減少したという主張は無意味ではないですか?

 

私:前段のご指摘はもっともだと思います。たとえば、算定表によれば婚姻費用の月額が5万円程度でも別居の際に10万円との覚書を交わしていればその後の審判でも月額10万円との審判が下る可能性が高いです。

 

相談者:そうですよね。夫は余りに無責任だと思います。

 

私:ただし、そのような合意によっていったん婚姻費用を10万円と定めても、旦那さんに収入事情の変更があり、婚姻費用の減額調停が申立てられた場合、その時点の収入をベースに、当初の合意とは無関係に婚姻費用が再度定められるということです。

なお、この場合、いわゆる新算定表が当然に適用されます。

 

実際に、冒頭でご紹介した決定(東京高決令和1年12月19日)でも、妻側は「従前の(調停によって合意された)婚姻費用を踏まえた金額とすべき」(※括弧書筆者。)と主張しましたが、東京高裁は、「本件においては、前期の事情変更によって変更された婚姻費用の額を、改めて標準算定方式によって算定するのが相当である。」としてゼロベースで検討する立場に立っています。

 

相談者:そうですか。そうすると、結局のところ、①減額調停の要件である事情の変更は認められそうで、②その結果、従前の調停の合意とは無関係にゼロベースで婚姻費用が決定される可能性が高いということですね。

③夫が年金受給開始を遅らせている件はどうなるのですか?

 

私:冒頭でご紹介した決定(東京高決令和1年12月19日)は、65歳で受給開始していればもらえたであろう金額をベースに、実際に働いている訳ではないので職業費が不要であることの調整等を行った金額を婚姻費用算定の基礎とする収入にすることとしました。

この判例のように考えるならば、実際に年金を受給開始していなくても、受給可能な状態ならその金額が算定表の基礎となる収入になります。

 

相談者:年金を受給していなくても収入がゼロということにはならないんですね。婚姻費用が今後もいくらか貰えそうで良かったです。

 

私:今回の裁判例は上記③について先例的価値のあるものですが、個人的には気になっていた②の部分もハッキリと判断を下している点で特に気に入ったのでご紹介致しました。

 

以上

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詐欺的な勧誘の見分け方

 

今回のテーマは『詐欺的な勧誘の見分け方』です。

 

新型コロナウイルスの影響で収入が低下する方が多い中、一見するとおいしい儲け話でお金を巻き上げられる方が増えています。

今回は私が多くの相談を受けてきた中で、「こういうケースはヤバい」というのをまとめてみました

 

この記事を参考に騙されないように注意してもらえればと思いますが、もし騙されてしまっも

事案によっては回収可能なケースもあるのでご相談頂ければと思います。

 

 

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写真は私が初めて本格的な登山で登った北アルプスの燕岳山頂付近です。

 

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相談者: 先生!最近知り合いから儲かる副業の話を持ちかけられるのですが怪しい気がします。大丈夫でしょうか?

 

私:投資やビジネスにリスクは付き物ですが、「こういうケースはヤバい」というものが私の経験上あって、それに該当するのであれば断るべきだと思います。

 

相談者:具体的に教えて下さい。

 

私:まず、お金の振込口座が契約書の当事者と異なるというのが挙げられます。例えば、契約は株式会社○○名義なのに、振込先が個人名の場合などです。

 

特に、その個人名が契約締結の場にいない方の場合は特に危険です。

 

 

相談者:どういうことですか?

 

私:ビジネスを法人名義でやる場合、法人名義の預貯金口座が必須になってきますが最近は銀行の審査がとても厳しくて、簡単には口座が作れません

そこで、会社としての実態が無いのに現在口座開設の手続中であるなど、適当な理由を言って営業担当者の個人名義の口座に振込ませようとしてきます。

また、担当者の独断のヤミ営業である可能性もあります。

 

さらに、口座の名義人が契約締結の場にいない人の場合、借金で首が回らなくなった人などから口座を違法に買い取った物である可能性があります。

そのような口座に振込をしてしまうと回収可能性が極めて低くなります。

 

そういったケースでは担当者がLINEなどカジュアルな方法で連絡してくる点も特徴だと思います。

 

相談者:契約書の有無はなにか基準になりませんか?

 

私:もちろん契約書が無い取引は論外ですが、契約書があるから安心というものでもありません。以前、マルチ商法の良く作り込まれた契約書を見ましたが、調べてみると代表が逮捕されていたので契約書の有無やその出来を基準に信用できるかを判断するのは止めた方が良いです。

特にマルチ商法の勧誘パンフレットには、特商法などの問題はクリアしてるから安心!などと謳っているものが多いですが信じてはいけません。

 

相談者:他にはなにかありますか?

 

私:勧誘や契約締結の場として会社や事務所ではなく、喫茶店レンタルオフィスが使われれるケースです。違法業者はアシがつくので事務所など構えないケースが多いからです。

個人的に気をつけて欲しいなと思うのは、都心のオシャレなレンタルシェアオフィスのような場所の雰囲気に流されてその場でお金を払ってしまうようなケースです。

 

相談者:私の場合、知り合いから別の方を紹介すると言われています。何か気をつけることはありますか?

 

私:仲介者がいる場合も要注意です。例えば一時期流行した、投資用ワンルームマンションの売りつけ商法では、細かいやりとりは仲介者が行うのですが、その仲介者が契約者と別だと契約解除が第三者に主張できるのかという問題が出てきます。

例えば、絶対儲かると言われて時価1,000万円のマンションをローンの利子含め1,500万円で買わされたケースで、全く関係ないところからお金を借りている場合、そのローン契約を取り消すことは難しいのです。

違法業者は非常に賢いのでこのようなトラップを幾重にも張り巡らせます。

 

相談者:その他にはありますか?

 

私:金融商品や投資系の話で多いのですが、「絶対儲かる」や「元本保証」は100%詐欺です。元本保証は出資法違反で刑罰も科されますし、絶対儲かるなどと言うのは消費者契約法の不実告知などに該当して契約を取り消せます。

また、株の売買では金商法の適合性原則も問題になり、より厳重な法規制がされています(※例えば、高齢のお年寄りに十分な説明の無いまま株を売った結果、その株が暴落した場合、売った人(証券会社など)は損害賠償責任を負う可能性があります。)。

しかし、非常に多くのケースでこの「絶対儲かる」や「元本保証」といったフレーズに騙される方をお見かけします。

 

相談者:仲のいい人が絶対儲かるなどと言ってきたら信じてしまいそうです。そういえば、最近流行っている競馬ですが、AIで絶対儲かるシステムがあると言われました。本当でしょうか?

 

私: 普通に考えてそんなウマい話は無いでしょうし、あったとしてもあなたに紹介するメリットが無いと思います(競馬は当選者が多くなればなるほど配当が減ります)。

そのような話で数十万円を騙まし取られたという話は割と聞きますが、こういったサービスは一応商品やサービスの提供もあるので法的に取り消すのも難しいです。

 

相談者:そういえば先生は以前クーリングオフについて非常に強力な手段だと話していましたよね?最悪損をしたらクーリングオフすればいいのではないですか?

 

私:何でもかんでもクーリングオフの対象になるわけではないというのは当ブログ『クーリングオフは最強のカード』でもお話しした通りです。また、クーリングオフしても回収できるかは別の話です。

 そもそもクーリングできる類型のビジネス(訪問販売やマルチ商法)はあまりにも儲かるのでがんじがらめに法規制がされたものです。したがって、現在では訪問販売やマルチ商法を適法に行うことはほぼ不可能となっています。

以前当ブログでもご紹介しましたが、クーリングオフできる類型のビジネスの誘いであれば無条件で警戒すべきです。

 

相談者:楽して儲けるのは難しいということですね。ありがとうございました。

 

以上

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債務不履行に基づく損害賠償請求の要件の整理


今回のテーマは『債務不履行に基づく損害賠償請求の要件の整理』です。

 

損害賠償請求には大きく分けて次の2つがあります。
1 債務不履行に基づくもの(民法415条)
契約関係がある場合にその不履行を巡る賠償請求。レンタルショップでDVDを借りたが返さなかった、などの例が挙げられます。


2 不法行為に基づくもの(民法709条)
契約関係が無くても請求可能。交通事故が典型例です。

→詳しくは当ブログ『損害賠償請求で請求出来る損害の範囲とは。』参照。

 

今回は実務で問題となりやすい1債務不履行に基づく損害賠償請求の要件について、誤解しやすい点をまとめてみました。
いつもより少し学術的で難しい話になります。

 

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相談者: 先生! 私はDVDのレンタルショップ事業を営んでいるのですが、お客さんが借りたDVDを返してくれません。法的措置を検討しているので、損害賠償請求についてわかりやすく教えて下さい。

 

私:そのような事案では債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)をまず検討すべきです。実体法(条文)上の要件は次のとおりです。


① 債務の存在
② 事実としての不履行
③ 債務者の帰責事由
④ 損害の発生
⑤ ②と④の因果関係


※中田裕康教授の『債権総論』第4版を参考にしていますが、他にも様々な整理がありえます。とりあえず本稿は上記の整理を前提にします。

 

相談者:①~⑤をすべて主張・立証すれば裁判で勝てるんですか?

 

私:そういうわけではありません。実体法上の要件は最終的に損害賠償請求権という法律効果が発生するための要件です。
原告が立証する責任を負うのは上記①~⑤の一部で残りは被告が立証責任を負います。これを要件事実と言います。この振り分けは『公平』と言う観点からなされます。

 

相談者:法律効果が発生するための要件と原告である私が実際に主張立証しなければいけない要件にズレがあるわけですね。それでは債務不履行に基づく損害賠償請求をするには、原告としてどのような事情を主張立証しなければいけないのですか?

 

私:まとめると次のようになります。
⑴ 債務の発生原因
⑵ ⑴の債務の不履行の要件事実
履行遅滞について

 ❶ 当該債務の履行に確定期限があること※確定期限のある本件の場合
 ❷ ❶の期限の経過
(❸ ❶の債務が❶の期限までに履行されなかったこと)
(❹ 反対債務の履行又はその提供(双務契約の場合))
履行不能について
 Ⅰ 履行が不能であること
不完全履行について
 壱 履行が不完全であること
 弐 追完が不能であること
⑶ 損害の発生及び額
⑷ ⑵と⑶の因果関係

 

相談者:履行遅滞とか履行不能とか不完全履行って何ですか?

 

私:債務不履行の形態について、履行遅滞履行不能不完全履行のどれに当たるのかを摘示するのが一般的です。履行期に遅れたら履行遅滞、何らかの事情で履行が出来なくなったら履行不能、履行が不完全であれば不完全履行です
※厳密にはこの3つに当てはまらないものもあるため、異なる分類も学説上は有力ですが本稿は一般的に実務でも採用されているこの三分類説に依拠していきます。
本件は履行遅滞なので履行遅滞のところを注目して下さい。

 

相談者:実体法上の要件③の債務者の帰責事由はどこにいったんですか?

 

私:③要件については、帰責事由の不存在が抗弁に回ります
契約によって既に給付する義務を負っている者の不履行ですから、帰責事由が無いというイレギュラーな事情については公平の観点から被告が立証責任を負います。

 

相談者:抗弁って何ですか?

 

私:今解説している⑴~⑷の要件事実が仮に立証されたとしてもその法律効果の発生を妨げる事実が立証されれば原告の請求は棄却される(被告が勝訴する)ことになります。
このような法律上の反論を抗弁と言います
本件では被告が帰責事由がない(落ち度がない)ことを主張立証することに成功すれば原告の請求は棄却されます。

 

相談者:❸で括弧がしてあるのは何ですか?

 

私:❸要件は実体法上の要件②債務の不履行のことですが、これが必要かについては争いがあります
そもそも、債務不履行に基づく損害賠償請求において、原告は債務の不履行について立証責任を負わない」という命題があります(大学等で教員から耳にタコができるくらい聞きます)。そうはいってもテキストを見ると債務の不履行も要件事実と書いてあるので大混乱を招くのですが、これは学説と実務が乖離していることから生じる誤解です。
この点、ほとんどの学者は履行不能不完全履行では債務の不能や不完全が要件事実になることとの均衡から❸要件が必要と考えますが、実務上は❸要件は不要と考えます。

 

相談者:何故でしょう?

 

私:債務の履行が『ない』ことの証明が困難であること。また、債務者は受領書の交付請求権(486条)を有しており、履行したことの立証は容易であることが理由です。
結局、原告は履行遅滞においては確定期限の合意とその到来さえ主張立証すればよく、被告はこの点を争いたければ自ら債務を履行したことを主張立証するしかないことになります。

 

相談者:❹は何ですか?

 

私:❹要件は学者の本によっては違法性と言われているものです。双務契約においては同時履行の抗弁権(533条)があるため、原告から原告が債務を履行した(=違法状態にある)ことを言わなければいけません。いわゆるせり上がりと言われる問題です。

 

相談者:履行が可能であることを要件に挙げる本を見たことがありますが、その要件はどういった位置づけになるのですか?

 

私:これも公平の観点から履行が不能であることが抗弁になると考えます。

 

相談者:最後にまとめてもらって良いですか?

 

私:つまり、限の経過”と”債務の不履行”が別概念で立証責任の所在も異なるということです。

これは私自身の経験でもありますが、「債務不履行に基づく損害賠償請求において、原告は”債務の不履行”について立証責任を負わない」という命題を念頭にテキストを読むと混乱します。しかし、結論として原告は、”債務の不履行”については立証責任を負わず、単に期限の合意と経過を主張・立証すれば良いことになります。

 

つまり、レンタル屋が”お客がDVDを返していない”(=債務の不履行)ことまでを主張立証する必要は無く、”返却日が○○日でそれは既に過ぎた(=返済期限の合意とその経過)”ということさえ言えば良いということになります

小さな違いに見えるかも知れませんが実際に立証しようとするとかなり大きな違いになります。


最終的に本件で原告が主張立証すべき要件は次のとおりです。
※ナンバリングはそのままにしています。
⑴ 債務の発生原因
⑵❶ 当該債務の履行に確定期限があること※確定期限のある本件の場合
 ❷ ❶の期限の経過
 ❹ 反対債務の履行又はその提供
⑶ 損害の発生及び額
⑷ ⑵と⑶の因果関係

 

相談者:本件では要件に該当する具体事実や必要な証拠はどうなりますか?

私:次のようになります。カッコ内は必要な証拠の例です。
⑴ 賃貸借契約締結の事実(契約書)
⑵❶ DVDの返却日を○月○日と定めた事実(契約書・レシート控えなど)
 ❷ ○月○日の経過(明らかな事実であり証拠不要)
 ❹ DVDを貸付けた事実(伝票等)
⑶ 損害が△円(利用規約や料金表)
⑷ 上記損害がDVD返却滞納により生じたものであること(相手からの反論次第)

 

相談者:なるほど。よくわかりました。よく使う条文ですがきちんと整理すると奥が深いですね。

 

以上
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最近引っ越したんだけど敷金って返ってくるの?

今回のテーマは一般の方の賃貸住居についての“敷金返還請求”です。

 

近頃暖かくなってきて、春の訪れを感じますね。新生活をスタートさせるために引っ越す方も多いかと思います。

引っ越しといえば、管理会社によっては、退去時の原状回復義務の範囲について数多くの特約を設けることで、敷金を返してくれないことがあります。

一般の住居の敷金は家賃の1〜2か月分ですから、敷金返還請求について、訴訟までするのは難しいかと思いますので、この記事で解説していこうと思います。

なかなか難しい問題ですが、思いがけず高額の退去費用を請求をされたらご相談ください。

 

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相談者: 先生!実は先日引っ越したのですが、管理会社が大手だからか賃貸借契約書や賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書など沢山の書類にサインさせられて大変でした。ところで、原状回復の項目をよく読むと、経年劣化や通常損耗を含むとするクリーニング費用もこちらで負担することになっています。色々言われて敷金が返ってこなかったらと思うと不安です。

 

私:まずは民法の大原則から確認していきましょう。2020年施行の債権法改正で改正された箇所ですが、現状回復義務について、民法上は通常損耗(通常の使用によって生じた賃借物の損耗)や経年劣化は賃貸人(貸す人のこと。大家。)の負担となっています(改正民法621条)。

つまり、通常損耗等につき、当事者間で何も合意しなかった場合は民法により賃貸人負担となります。例えば5年前に借りた新築の建物を明け渡すときに、入居時の状態に回復しなければならないとすれば、賃貸人は建物を貸して賃料収入を得ておきながら、建物の返却を受けるときには建物はいつも新築同様というおかしな事態になってしまうからです(※大阪高判平成16.12.17(判時1894・19)も同趣旨のことを熱弁していますので興味のある方はご覧ください。)。

 

一方で、一定の厳格な条件の下、賃借人負担とする特約も有効とされていますので特約がある場合はその有効性を争うことになります。

 

相談者:仮に細かいことを契約書で定めていなかった場合に、何が通常損耗に当たるかというのはどうやって判断するんですか?

 

私:国交省のガイドライン東京都のガイドラインを参考にすることが多いです。これは多数の裁判例の集積に基づくもので、例えば、「テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ」は賃貸人負担、「壁等のくぎ穴、ネジ穴」は賃借人負担など、かなり詳細に書かれており、参考になります。普通に読んでいても面白いのでリンクを貼っておきますね。

 

相談者:なるほど。特約がないとそういうことになるのですね。

一方で、今回は契約書に通常損耗等を含むクリーニング費用は賃借人の負担とする特約があるパターンです。正直、すごいスピードで契約書が読み上げられて、その場ですぐに署名したので、十分に特約の内容を理解していなかったのですが、署名した以上は負担しなければいけないのですよね?

 

私:特約の有効性について、最判平成17.12.16(判時1921・61)は「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。」と判示しています。

 

相談者:うーん。契約書等はしっかりしたものなので「具体的に明記」されていることは争えないかもですねぇ…。

 

私:合意の存在が認められたとしても最後の手段として、消費者契約法10条違反により特約が無効であると主張する手段が考えられます。

 

国交省や東京都のガイドラインによれば、特約の有効性は、次の①〜③により判断されるとありますので、この要件を満たしていない場合、その特約は消費者契約法で無効になる可能性があります。

 ①特約の必要性があり、暴利的でないなどの客観的理由が存在

 ②賃借人が特約により通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことを認識していること

 ③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

相談者:う〜ん。契約書や重要事項説明書を見ると、通常損耗は大家負担であるという原則を明示しつつ、例外としてクリーニング費用がかかることが示されていますね。また、クリーニング費用についてもちょっと高い気がしますが、おおよその相場が示されています。

 

私:契約書や重要事項説明書を拝見すると、上記要件の②③は満たしてそうですね。暴利的でなければ争うのは難しいかもしれません。

 

相談者:実は引越しの際に、壁紙が少し破けたり、フローリングを凹ませたりしてしまったのが心配です。こういった費用はどうなるんですか?

 

私:このような修繕費は賃借人の故意過失によるものですから賃借人負担になります。ただし、その場合でも例えば不必要に壁紙を全て交換するようなことはできませんし、負担割合という物がありますから全額負担ということにはなかなかならないと思います。

 

相談者:負担割合って何ですか?

 

私:冒頭でお話ししたように、通常損耗は賃貸人負担が原則です。したがって、例えば新築で1年借りて出て行く場合、1年分の経年劣化分を差し引いた金額を負担することになります。あなたの場合でも契約書に負担割合の表がありますよね?1年だと85%ですのでこの割合を負担することになります。

 

相談者:なるほど…。最後にまとめるとどういうことになりますか?

 

私:あなたの場合、通常損耗は原則賃貸人負担です。ただし、通常損耗を含む部分についてもクリーニングの費用を負担することになります。この特約は現状有効そうに思えますが、クリーニング費用があまりにも高額であるならば争う余地が生じると思います。

壁紙やフローリングの傷はあなたが負担することになると思いますが、その場合、負担割合や修理箇所による制限が生じます。

ただし、自分で傷つけた物でないものは当然負担する義務はありません。入居時や退去時の立ち会いでしっかり確認し、不当な請求があれば争えるでしょう。

 

相談者:そういうことでしたらある程度納得できますね。もし揉めたらお願いします。

 

私:今回は大手の管理会社が相手ということで契約書なども作り込まれていましたが、小さな管理会社や個人の場合、借地借家法を無視した契約書であることも多く、そのような場合はかなりの部分が争えますのでご相談いただければと思います。

 

以上

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損害賠償請求で請求出来る損害の範囲とは。


今回のテーマは『損害賠償請求で請求できる損害の範囲』です。

 

損害賠償請求には大きく分けて次の2つがあります。

債務不履行に基づくもの(民法415条)
契約関係がある場合にその不履行を巡る賠償請求。期限までに商品が届かなかったから損害が出た、頼んだ物が不良品だった、などの例が挙げられます。

→詳しくは当ブログ『債務不履行に基づく損害賠償請求の要件の整理』参照。


不法行為に基づくもの(民法709条)
契約関係が無くても請求可能。交通事故が典型例です。

 

今回は法律相談で多いⅱ 不法行為に基づく損害賠償請求で、「これは請求できるの?」「あれはどうなの?」といった疑問にお答えします。

 

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相談者: 先生! の分譲マンションの上の部屋から漏水があり部屋中水浸しです。どうも下水管が破裂したみたいで部屋中汚水まみれで耐えられません。助けて下さい!

 

私:破裂したのが共用部分なのか、専有部分なのか、その原因は何なのかなどの問題があります。これはそもそも相手方に請求できるのかできないのかという問題であり、不法行為における責任論と呼ばれています。
これをクリアしないと請求は1円も認められません。

 

相談者:まあ請求は出来るとしましょう。今回聞きたいのは僕が持ってきたこの領収書の山を全て相手方に請求出来るかと言うことです。

 

私:おっしゃる問題は不法行為における損害論と言います。上記の責任論をクリアしたことを前提に、いったいどこまでの損害が認められるかという問題です。
ちなみに領収書の山を渡されても困るので、ちゃんとまとめて来て下さい。日付・金額・摘要は最低限記載して同種の損害ごとに日付順にまとめた上で、原本がどこにあるか分かるようにして下さい。領収書はとりあえずは写しで結構ですのでPDFやエクセルを上手く使うと良いと思います。

 

相談者:実はここにまとめたものがあります。せっかくですから基本的なところから伺いますが、そもそも「損害」って何ですか?

 

私:実務では加害行為があった場合と無かった場合の差額こそが損害とされています。
例えば交通事故でむち打ち(首が痛む状態)になったとしても、実際に減収が無ければ逸失利益について「損害」は認められません。

 

相談者:なるほど。ちょっと具体的な話に戻りますね。今回僕の部屋が上の階から漏れてきた汚水まみれになりました。そこで以下のような損害が出ていると思っています。先生の今の「損害」の説明からすればこれらは当然全て請求できますよね?

 

①業者によるクリーニング費用。
②汚水がかかったため取り替え可能な部分は全て新しい物に交換する費用。
③新しい物を調達し、搬入する費用。
④新しい物を調達するにあたって発生する私の人件費相当額。
⑤クリーニング業者などを選定するために喫茶店で妻と打合せをするのにかかった飲食代。
⑥クリーニング完了までのホテル代。
⑦汚水が母の形見の母の手作りの茶碗にかかった(代わりの無い物だとどうなる?)。
⑧弁護士費用全額。
⑨(仮に裁判するなら)裁判費用全額。
⑩慰謝料。

 

私:認められるであろうものもあれば難しいものもありますね…。

 

相談者:泣き寝入りですか!?だったら刑事告訴して下さい!!

 

私:まあまあ。順番に説明していきましょう。不法行為に基づく損害賠償請求が認められるには、不法行為と「損害」との間に因果関係が必要です。
判例民法416条を類推適用する立場ですが、実際は相当因果関係説によって判断されています。

 

相談者:相当因果関係説って何ですか?

 

私:事実的な因果関係があるもの全てについて賠償を認めるとその範囲が広すぎるため法的判断により損害の範囲を制限する立場です。これから説明するように、損害の類型ごとにある程度の相場はありますが、きわどいものに関しては、それを損害として認めることが「相当か」という裁判官の判断で決まります。判決では単に証拠が認められないとか、因果関係がないとか記載されます。

 

相談者:法律ってもっとカッチリしたものだと思っていました…。

 

私:とはいえ、請求出来るかについてある程度は相場が決まっています。これから損害の類型ごとに認められるかどうかの一般論を説明します。
 まず、損害には⑴人の身体に対するもの、⑴-2死亡した場合、⑵物に対するものがあります。

 

⑴人の身体に対するもの
▽治療費、入院費
合理的な範囲で認められる。

逸失利益
合理的な範囲で認められる。

▽慰謝料
「諸般の事情を考慮して裁判所が裁量によって算定する」。明確な基準が無いことが多く、類似事例であっても参考程度にしかならない。

 

⑴-2死亡した場合
▽死亡までの治療費・入院費
合理的な範囲で認められる。

逸失利益
死亡した場合、食費等がかからないという違いがありその分控除額が大きくなるが基本的には上記負傷の場合と変わらない。

▽慰謝料
上記負傷の場合と変わらない。

▽葬儀費用
生活水準に応じた範囲で認められる。

 

⑵物に対するもの
▽修理費用およびその間の代替的な措置のためにかかる費用
合理的な範囲で認められる。

▽修理不可能な場合
同程度の物を市場で購入する場合の価格が基準になる。

逸失利益
物自体から収益を上げられる場合であれば可能。ただし代替物がある場合は難しい。

▽慰謝料
家族同然のペットが死亡した等の特別の事情がある場合を除いて認められない。

 

⑶全てに共通するもの
▽弁護士費用
裁判においてのみ、請求額の1割程度が弁護士費用として認められている。任意交渉で相手に請求することはできない。

▽裁判費用
裁判において裁判所が認めれば一部について請求可能。近時の裁判例で裁判所が認めた以外の費用について改めて訴訟で請求可能かどうかが争われたものがあるが否定された。

 

相談者:何となく頭の中が整理されてきました。

 

私:具体的に本件では次のように整理できそうですね。

(a)請求できそうなもの
①業者によるクリーニング費用。
→合理的な範囲で可能でしょう。

⑥クリーニング完了までのホテル代。
→原因が汚水ですし、汚染された程度によりますが、認められる可能性が高いと思います。

⑧弁護士費用全額。
→一部について裁判で認められる可能性があります。

⑨(仮に裁判するなら)裁判費用全額。
→一部について裁判で認められる可能性があります。

 

(b)請求出来なさそうなもの
②汚水がかかったため取り替え可能な部分は全て新しい物に交換する費用。
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。ただし、クリーニング不可又は性質上クリーニングによることが出来ない物については認められる可能性があります。

③新しい物を搬入する費用。
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。ただし、クリーニング不可又は性質上クリーニングによることが出来ない物について特別の搬入費用がかかるのであればその分は認められる可能性があります。

④新しい物を調達するにあたって発生する私の人件費相当額。
→難しいです。

⑤クリーニング業者などを選定するために喫茶店で妻と打合せをするのにかかった飲食代。
→因果関係が否定されると思います。

⑦汚水が母の形見の母の手作りの茶碗にかかった。代わりの無い物だとどうなる?
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。口に触れる茶碗という性質を考慮し、クリーニングできないと考えた場合、同等の物品の市場価格での賠償ということになります。

⑩慰謝料
→今回は物に対する被害しか無いため原則請求出来ません。母の形見の茶碗については議論があり得るところかと思いますがその金額がいくらなのか等難しい問題があります。

 

相談者:わかりやすいですね。わざわざありがとうございました。

 

以上。
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