弁護士浅野剛によるWeb法律相談

弁護士浅野剛が、身近な法律問題を仮想の法律相談形式でなるべくわかりやすく説明するブログです。

婚姻費用について~東京高決令和1年12月19日を参考に~

 

今回のテーマは『婚姻費用』です。

 

久々に最新判例の検討を行います。実務家でなくとも分かるように工夫しましたので是非ご覧下さい。

 

今回は、最新の重要判例(東京高決令和1年12月19日判例時報2471号68頁)を参考に、①婚姻費用の金額の合意があった場合に減額調停が申立てられた場合、当初の合意額をベースに算定するのか、それともゼロベースで算定するのかという問題及び、②年金受給資格はあるけれども実際には受給していないケースで算定表の基礎となる収入にこれを加えることが出来るか、という問題を検討していきます。

 

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写真は私が昨年登った鳥海山秋田県山形県)の山頂付近です。奥に薄ら日本海が見えます。

 

 

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※以下の事例は上記裁判例を参考にはしていますが、あくまでも架空の別事例で無関係です。

 

相談者: 先生! 私は夫と別居後、裁判所に婚姻費用分担の調停を申し立て、調停の結果、婚姻費用が月額15万円という調停がまとまりました。しかし、先日、65歳になった夫が会社を退職したということで収入が無くなったと主張して婚姻費用の減額調停を申し立ててきました。夫は、既に年金受給資格を有しているのに受給額をなるべく増やしたいということで70歳まで年金は受給しないことにしているから収入がゼロで婚姻費用は払えないと言っています。私の婚姻費用はどうなってしまうのでしょうか?

 

私:まず、婚姻費用はお互いの収入をベースに家裁HPに掲載されている算定表というものをベースに決められます

詳しくは当ブログ 『【2020/11/12更新】婚姻費用・養育費ってどうやって決まるの?算定表って何?』をご参照ください。

 

相談者:有名な算定表ってヤツですね。今回は婚姻費用の減額調停ですが、これが認められる要件って何でしたっけ?

 

私:基本的な事情は織り込み済みであるし、婚姻費用はあくまでも離婚までの暫定的なものと考えられていますので、多少の事情の変更があっても減額や増額は認められません。次の要件が必要です。

 

⑴合意等の前提となった客観的事情が変更したこと

⑵事情の変更が当事者の予見した又は予見しうるものでないこと

⑶事情変更が当事者の責めに帰することのできない事情により生じたこと 

⑷合意等どおりの履行を強制することが著しく公平に反する場合であること

 

詳しくは当ブログ『養育費、婚姻費用の新算定表について』をご参照ください。

 

相談者:会社の退職は解雇であればこれに当たる可能性が高いのですよね?

 

私:そうですね。今回は定年退職ですが、定年退職でも大幅な収入の減少があることに変わりはないですから予見できたとは言え、事情変更に当たる可能性は高いように思います。

 

相談者:今回のケースで気になっている点がありまして、まず、当初の婚姻費用調停で夫の方から月額15万円にしてくれと言ってきたのでそのようにしたんですよ。完全に任意な合意がある場合、婚姻費用の金額は算定表に縛られないのではないのですか?つまり夫の収入が減少したという主張は無意味ではないですか?

 

私:前段のご指摘はもっともだと思います。たとえば、算定表によれば婚姻費用の月額が5万円程度でも別居の際に10万円との覚書を交わしていればその後の審判でも月額10万円との審判が下る可能性が高いです。

 

相談者:そうですよね。夫は余りに無責任だと思います。

 

私:ただし、そのような合意によっていったん婚姻費用を10万円と定めても、旦那さんに収入事情の変更があり、婚姻費用の減額調停が申立てられた場合、その時点の収入をベースに、当初の合意とは無関係に婚姻費用が再度定められるということです。

なお、この場合、いわゆる新算定表が当然に適用されます。

 

実際に、冒頭でご紹介した決定(東京高決令和1年12月19日)でも、妻側は「従前の(調停によって合意された)婚姻費用を踏まえた金額とすべき」(※括弧書筆者。)と主張しましたが、東京高裁は、「本件においては、前期の事情変更によって変更された婚姻費用の額を、改めて標準算定方式によって算定するのが相当である。」としてゼロベースで検討する立場に立っています。

 

相談者:そうですか。そうすると、結局のところ、①減額調停の要件である事情の変更は認められそうで、②その結果、従前の調停の合意とは無関係にゼロベースで婚姻費用が決定される可能性が高いということですね。

③夫が年金受給開始を遅らせている件はどうなるのですか?

 

私:冒頭でご紹介した決定(東京高決令和1年12月19日)は、65歳で受給開始していればもらえたであろう金額をベースに、実際に働いている訳ではないので職業費が不要であることの調整等を行った金額を婚姻費用算定の基礎とする収入にすることとしました。

この判例のように考えるならば、実際に年金を受給開始していなくても、受給可能な状態ならその金額が算定表の基礎となる収入になります。

 

相談者:年金を受給していなくても収入がゼロということにはならないんですね。婚姻費用が今後もいくらか貰えそうで良かったです。

 

私:今回の裁判例は上記③について先例的価値のあるものですが、個人的には気になっていた②の部分もハッキリと判断を下している点で特に気に入ったのでご紹介致しました。

 

以上

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