弁護士浅野剛によるWeb法律相談

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損害賠償請求で請求出来る損害の範囲とは。


今回のテーマは『損害賠償請求で請求できる損害の範囲』です。

 

損害賠償請求には大きく分けて次の2つがあります。

債務不履行に基づくもの(民法415条)
契約関係がある場合にその不履行を巡る賠償請求。期限までに商品が届かなかったから損害が出た、頼んだ物が不良品だった、などの例が挙げられます。

→詳しくは当ブログ『債務不履行に基づく損害賠償請求の要件の整理』参照。


不法行為に基づくもの(民法709条)
契約関係が無くても請求可能。交通事故が典型例です。

 

今回は法律相談で多いⅱ 不法行為に基づく損害賠償請求で、「これは請求できるの?」「あれはどうなの?」といった疑問にお答えします。

 

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相談者: 先生! の分譲マンションの上の部屋から漏水があり部屋中水浸しです。どうも下水管が破裂したみたいで部屋中汚水まみれで耐えられません。助けて下さい!

 

私:破裂したのが共用部分なのか、専有部分なのか、その原因は何なのかなどの問題があります。これはそもそも相手方に請求できるのかできないのかという問題であり、不法行為における責任論と呼ばれています。
これをクリアしないと請求は1円も認められません。

 

相談者:まあ請求は出来るとしましょう。今回聞きたいのは僕が持ってきたこの領収書の山を全て相手方に請求出来るかと言うことです。

 

私:おっしゃる問題は不法行為における損害論と言います。上記の責任論をクリアしたことを前提に、いったいどこまでの損害が認められるかという問題です。
ちなみに領収書の山を渡されても困るので、ちゃんとまとめて来て下さい。日付・金額・摘要は最低限記載して同種の損害ごとに日付順にまとめた上で、原本がどこにあるか分かるようにして下さい。領収書はとりあえずは写しで結構ですのでPDFやエクセルを上手く使うと良いと思います。

 

相談者:実はここにまとめたものがあります。せっかくですから基本的なところから伺いますが、そもそも「損害」って何ですか?

 

私:実務では加害行為があった場合と無かった場合の差額こそが損害とされています。
例えば交通事故でむち打ち(首が痛む状態)になったとしても、実際に減収が無ければ逸失利益について「損害」は認められません。

 

相談者:なるほど。ちょっと具体的な話に戻りますね。今回僕の部屋が上の階から漏れてきた汚水まみれになりました。そこで以下のような損害が出ていると思っています。先生の今の「損害」の説明からすればこれらは当然全て請求できますよね?

 

①業者によるクリーニング費用。
②汚水がかかったため取り替え可能な部分は全て新しい物に交換する費用。
③新しい物を調達し、搬入する費用。
④新しい物を調達するにあたって発生する私の人件費相当額。
⑤クリーニング業者などを選定するために喫茶店で妻と打合せをするのにかかった飲食代。
⑥クリーニング完了までのホテル代。
⑦汚水が母の形見の母の手作りの茶碗にかかった(代わりの無い物だとどうなる?)。
⑧弁護士費用全額。
⑨(仮に裁判するなら)裁判費用全額。
⑩慰謝料。

 

私:認められるであろうものもあれば難しいものもありますね…。

 

相談者:泣き寝入りですか!?だったら刑事告訴して下さい!!

 

私:まあまあ。順番に説明していきましょう。不法行為に基づく損害賠償請求が認められるには、不法行為と「損害」との間に因果関係が必要です。
判例民法416条を類推適用する立場ですが、実際は相当因果関係説によって判断されています。

 

相談者:相当因果関係説って何ですか?

 

私:事実的な因果関係があるもの全てについて賠償を認めるとその範囲が広すぎるため法的判断により損害の範囲を制限する立場です。これから説明するように、損害の類型ごとにある程度の相場はありますが、きわどいものに関しては、それを損害として認めることが「相当か」という裁判官の判断で決まります。判決では単に証拠が認められないとか、因果関係がないとか記載されます。

 

相談者:法律ってもっとカッチリしたものだと思っていました…。

 

私:とはいえ、請求出来るかについてある程度は相場が決まっています。これから損害の類型ごとに認められるかどうかの一般論を説明します。
 まず、損害には⑴人の身体に対するもの、⑴-2死亡した場合、⑵物に対するものがあります。

 

⑴人の身体に対するもの
▽治療費、入院費
合理的な範囲で認められる。

逸失利益
合理的な範囲で認められる。

▽慰謝料
「諸般の事情を考慮して裁判所が裁量によって算定する」。明確な基準が無いことが多く、類似事例であっても参考程度にしかならない。

 

⑴-2死亡した場合
▽死亡までの治療費・入院費
合理的な範囲で認められる。

逸失利益
死亡した場合、食費等がかからないという違いがありその分控除額が大きくなるが基本的には上記負傷の場合と変わらない。

▽慰謝料
上記負傷の場合と変わらない。

▽葬儀費用
生活水準に応じた範囲で認められる。

 

⑵物に対するもの
▽修理費用およびその間の代替的な措置のためにかかる費用
合理的な範囲で認められる。

▽修理不可能な場合
同程度の物を市場で購入する場合の価格が基準になる。

逸失利益
物自体から収益を上げられる場合であれば可能。ただし代替物がある場合は難しい。

▽慰謝料
家族同然のペットが死亡した等の特別の事情がある場合を除いて認められない。

 

⑶全てに共通するもの
▽弁護士費用
裁判においてのみ、請求額の1割程度が弁護士費用として認められている。任意交渉で相手に請求することはできない。

▽裁判費用
裁判において裁判所が認めれば一部について請求可能。近時の裁判例で裁判所が認めた以外の費用について改めて訴訟で請求可能かどうかが争われたものがあるが否定された。

 

相談者:何となく頭の中が整理されてきました。

 

私:具体的に本件では次のように整理できそうですね。

(a)請求できそうなもの
①業者によるクリーニング費用。
→合理的な範囲で可能でしょう。

⑥クリーニング完了までのホテル代。
→原因が汚水ですし、汚染された程度によりますが、認められる可能性が高いと思います。

⑧弁護士費用全額。
→一部について裁判で認められる可能性があります。

⑨(仮に裁判するなら)裁判費用全額。
→一部について裁判で認められる可能性があります。

 

(b)請求出来なさそうなもの
②汚水がかかったため取り替え可能な部分は全て新しい物に交換する費用。
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。ただし、クリーニング不可又は性質上クリーニングによることが出来ない物については認められる可能性があります。

③新しい物を搬入する費用。
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。ただし、クリーニング不可又は性質上クリーニングによることが出来ない物について特別の搬入費用がかかるのであればその分は認められる可能性があります。

④新しい物を調達するにあたって発生する私の人件費相当額。
→難しいです。

⑤クリーニング業者などを選定するために喫茶店で妻と打合せをするのにかかった飲食代。
→因果関係が否定されると思います。

⑦汚水が母の形見の母の手作りの茶碗にかかった。代わりの無い物だとどうなる?
→基本的にはクリーニング代までしか認められないでしょう。口に触れる茶碗という性質を考慮し、クリーニングできないと考えた場合、同等の物品の市場価格での賠償ということになります。

⑩慰謝料
→今回は物に対する被害しか無いため原則請求出来ません。母の形見の茶碗については議論があり得るところかと思いますがその金額がいくらなのか等難しい問題があります。

 

相談者:わかりやすいですね。わざわざありがとうございました。

 

以上。
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