池袋の弁護士浅野剛によるWeb法律相談

池袋の弁護士浅野剛が、身近な法律問題を仮想の法律相談形式でなるべくわかりやすく説明するブログです。

取得時効で領土拡大していったら日本全土がマイホームに!?

今回のテーマは『取得時効』です。

 

取得時効は法学部1年生で習う基本論点ですが、簡単そうに見えて自主占有という概念がなかなか難しく、また面白いため今回取り上げることにしました。

 

仮に不法占拠者に取得時効が認められるとした場合、(刑法を無視すれば)戦国武将の如く実力による取得時効を進めていって日本全土を手中に収めることが出来てしまうのでは?という仮説を検討していきます。

 

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相談者: 先生!別荘を建てようと思って郊外に先に土地を買ったのですが、最近怪しげな人達が不法占拠していることを知りました。民法には所有権の取得時効という制度がありますよね?私の土地は奪われてしまうのでしょうか?

 

私:結論から言えば大丈夫です。不法占拠では不動産について取得時効は認められないというのが一般的な考えです。

 

相談者:結論だけ聞いても不安なので、そもそも取得時効は何かという点から説明して下さい

 

私:はい。取得時効とは、動産や不動産を一定期間占有していた場合にその占有を尊重して占有者に所有権を認めてしまうという制度です。

 

ちなみに占有というのは事実上の支配関係が及んでいる状態を言います。所有というのは観念上の権利が及んでいる状態を言います。占有というのは目に見えるけれども所有というのは目に見えないと言う点でこれらは対極的な概念と言えます。

 

本来、所有と占有が分離した場合は所有が優先されます。例えばあなたがスマホを落として誰かが拾ったとしてもあなたは拾った人に対してスマホを返してと言えますよね?
これは所有権という観念上の権利があるからこそ言える主張なのです。

 

取得時効というのは、この【所有と占有が分離した場合は所有が優先】という大原則の例外で、長期間占有が継続している場合にその事実状態を尊重しましょうという理由から現実の占有の方に観念上の所有を合わせてしまうというある意味過激な規定となっています。

 

時効を主張しようとする者が主張立証責任を負う具体的な要件は、以下の通りです。
・長期取得時効の場合
①(所有の意思に基づく)ある時点における占有
②①から20年経過時における占有
③時効の援用

・短期取得時効の場合
①(所有の意思に基づく)ある時点における占有
②①から10年経過時における占有
③時効の援用
④①の時点で自己の所有と信じるにつき善意無過失

 

相談者:なるほど。それで本件だとどの要件が問題になるのですか?

 

私:まず、占有は平穏かつ公然と行われなければなりませんから、戦国武将のように実力行使で不法占拠するということは認められません。
ただ、誰もいない間にこっそりと占有を開始したと言うことであれば平穏公然による占有でないとは言えないでしょう。
本件で検討すべきは占有に所有の意思が認められるかという点です。

 

相談者:所有の意思って何ですか?

 

私:所有者がすることができるのと同様の排他的支配を事実上行おうとする意思と言われます。
要するに、①物を買った人は、購入後は自分の所有物のように使ったり貸したり売ったりしますよね?一方で、②物を借りたに過ぎない人はあくまでも所有者が他にいることを前提にその物を使用収益します。

①を自主占有②を他主占有と呼び、②他主占有をどれだけ長期間継続しても時効取得は出来ないのです。
仮に他主占有でも時効取得可能だとした場合、長期間アパートを借りたら所有権を得るということになってしまいますがこれがおかしいことは分かりますよね。

 

相談者:なるほど。それで私の件ですが、不法占拠者に自主占有は認められるのですか?

 

私:まず、通説は動産(※不動産で無い物。スマホなど。)については、盗人に自主占有が認められるとしています。すなわち時効取得されてしまいます。
この考え方からすれば、不法占拠者も盗人のようなものですから、自主占有が認められるようにも思えます。


しかし、近時、阪高において、借りた人がどれだけ長期間占有しても取得時効が成立しないのに不法占拠者に取得時効を認めるのは不均衡であるとしてこれを否定した裁判例があります。

おそらく、不動産は動産よりも高価であり、真の権利者保護の必要が高いことから判断が分かれたのだと思います。

 

裁判所は、不動産の自主占有の有無について登記の移転を求めたか、及び固定資産税を納付していたかの2点を重要な考慮要素にしています。
例えば、普通に土地を購入したつもりで固定資産税を払ってきたが実は売主に所有権が無かった、などというケースでは正当な占有権原が無いという意味では不法占拠ですが自主占有は認められるでしょう。
逆に今回のケースのようによく分からない人達がいきなり占拠したとしても自主占有は認められないのです。

 

相談者:下級審の裁判例とはいえ近時の大阪高裁の判決ということであればそれなりに先例性のありそうな判決ですね。
なるほど一安心です。

 

私:とはいえ、このままでは別荘を建てられませんから明け渡し訴訟は必要でしょう。また、このような事案では不法占拠者をきちんと追い払うために民事保全も必須ですから弁護士に依頼された方が良いと思います。

 

以上
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